地域に見守られ、地域を見守る。多世代を温かく迎え入れる、まちのコーヒーショップ

下京区の静かな街並みに佇む「ネクタイコーヒー」。古民家を改装した店内は、外から中の様子がよく見えるガラス張りの扉と、元々反物屋さんだった名残を感じさせる「小上がり」の席が特徴的です。

店主である、中川さん夫妻からも温かい雰囲気が自然と伝わってきます。観光客やインバウンドの方も訪れますが、何より地域の日常に溶け込んでいるのが「ネクタイコーヒー」の魅力です。

浅煎りの香りと元・反物屋の面影のある、こだわりのお店

中川優さん、麻亜子さん、お二人とも、サードウェーブコーヒーの代表格であるブルーボトルコーヒーで経験を積み、お店を開業されました。

「僕が好きな浅煎りのコーヒーをメインに扱っています。お店には多様な世代の方が来てくださり、昨日は下は0歳から、上は93歳のご年配の方まで来られました。近くに保育園が多いので、送り迎えのお父さん、お母さんも立ち寄ってくださいます。」

「ネクタイコーヒー」の魅力は、コーヒーの味だけではありません。その空間づくりにも、お二人のこだわりが詰まっています。物件探しの際、「ビビッときた」というのが、店内に残る「小上がり」の存在です。かつては反物屋さんとして使われていた面影が残っており、「ここに座布団を敷いて、外の景色を見ながらコーヒーを飲んだらすごく良さそうと思い、この場所を選ぶ決め手となりました。」と優さんは話します。

一杯ずつ丁寧に淹れる本格的なコーヒーと誰でも迎え入れるどっしりとした古民家の佇まい。ふらりと立ち寄りたくなる空気感を作り出しています。

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おすすめの浅煎りコーヒーと手作りのチーズケーキの相性は抜群
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ガラス張りの扉とコーヒーミルのオブジェが目印

「おせっかい」が温かい。下京・島原エリアの地域コミュニティ

お店のある島原エリアは、かつては、さまざまな商店が多くあったエリアだと言います。そのため、古くから住んでおられる方も多く、ネクタイコーヒー周辺では、多くの高齢者の方が暮らしておられます。

「お店の前の通りでは、毎日同じ時間に散歩されている方や井戸端会議をされている方を見かけます。面倒見の良い方が多く、みなさんで声を掛け合って、お店に来てくださることもあります。まるで地域の集会所みたいになっていますね。」

実は、ここ島原エリアは麻亜子さんの地元ということで、お店ができる前から地域住民のみなさんが気にかけてくださっていたそうです。そのおかげか、普段はおしゃれな古民家カフェに入りづらいと感じる高齢の方々も、遊びに来るような感覚で訪れています。

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カウンター越しに常連さんや地域の方と会話されている風景は日常

子育て層を温かく見守る、このまちに息づく「小さな優しさ」

小さなお子さんを育てながら、コーヒーショップを営む中川さん夫妻。お二人のような子育て世帯にとって、下京区での暮らしはどのようなものなのでしょうか。

「保育園も探しやすかったですし、何より地域の方々が子どもをとても可愛がってくれます。散歩しているだけで『可愛いね』と声をかけてくれます。」

優さんは、ある一人の高齢者の方の話をしてくれました。ゴミ収集の日、カラスに荒らされないように、収集車が来るまでずっとごみを見守ってくれている方がいるそうです。

「誰も知らないところで、地域に貢献している方がいることを知りました。普通に暮らしていたら気付かないかもしれませんが、毎日同じ場所でお店を開き、まちの日常を見つめていると、そういう『小さな優しさ』や『誰かの努力』で地域が成り立っていることに気付かされました。」

若い世代が多いエリアは、子育てしやすい環境が整っており、便利かもしれません。一方で、島原エリアでは、長年暮らしてきた人たちの知恵があり、さまざまな優しさに気付くことができるという意味で、とても豊かに暮らせる場所なのかもしれません。

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お手洗いには、島原のお店や場所が書かれたMAPが掲示されています

地域に根付く、みんなが集まれる場所を目指して

最後に、今後の展望について伺いました。

「コーヒー屋さんなので、自分たちが美味しいと思うコーヒー豆を知ってもらうために、ギフトなどでもっとさまざまな方にお届けしたいです。そして何より、地域の人が集まれる場所としての需要が大きいことを肌で感じています。これからも集まれる場所としての役割を大切にしていきたいです。」

現在の場所にお店を構える前、京都市内の商店街で間借りのコーヒー店を営んでいた時期がありました。「そこでは近隣の住民さんや商店主さんが日常的に足を運んでくれました。その交流を通じて、お店を構える土地にどう根付き、暮らしている方々を深く知ることがいかに大切か、身をもって感じたんです。」その時にもらった温かな交流や「まちを知る」ことの重要性が、今、中川さんの大きなモチベーションになっています。

「個人店だからこそ、店主の想いが直接伝わります。地域の人のための場所であり、誰でも気軽に来れる場所でありたいですね。」

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一杯ずつ丁寧に時間をかけながら淹れるコーヒー

(2026年1月取材)