いつも売り切れ?!まぼろしのおかき「うすばね」とは
創業明治19年。今から136年前から変わらずに続く手焼き京あられ・おかきの老舗菱屋さん。京都の花街、島原の大門のすぐ近くにお店があります。
いつ行っても売り切れの札が出ているおかき、それが「うすばね」です。
名前のとおり、向こう側が透けるほどに薄い、羽根のような軽さのおかき。パリッとした食感と、しょうゆの香ばしさが癖になります。初めて食べた時おもわず「えっ?!」と声がでるくらいおいしかったんです。
うすばねのおいしさの秘密を、菱屋をお二人だけで切り盛りされている、4代目の藤田さんご夫婦におききしました。
菱屋は花街の近くにあったことから、お店への手土産や、自宅へのお土産におかきを買われる方が多かったそうです。「昔は夜中の2時3時までお店を開けていた」とのこと。当時の島原のにぎやかさが偲ばれます。
うすばねは創業当時から変わらない製法で作られています。うすばねが出来上がるまでの工程は、餅つきから始まり、0.4mmほどの薄さに削った餅を、網にのせ1枚ずつ乾かし、焼く。その後、調味したお醤油をかけ、また乾かす。出来上がりまで、なんと2週間以上の時間とたくさんの手間暇をかけてようやく店頭に並ぶのだそうです。
この製法をこれからに引き継ごうと、他のおかき屋さんが藤田さんに学び、うすばね作りにチャレンジされたことがあったそうですが、どうしても同じものが作れなかったんだそう。
菱屋には定休日がありません。盆と正月以外は、ほぼ毎日、お二人だけで、うすばねや他のおかきを作られています。「体力がいる仕事です。夏も冬も大変。」と話される藤田さんの奥さんですが、「お客さんが、おいしかったからまた来ましたって来てくれるのがうれしくてやってるんです」と笑顔で話してくださいました。
売り切れの札が出ている時。それはお店の奥で、伝統を守りながらていねいにていねいに藤田さんご夫婦がうすばねを作っている時なんだなあと思いました。
菱屋がある島原商店街には、昔とかわらない味や技術を今に伝える老舗がたくさんあります。後継者の不足や、少子高齢化、また住民の暮らしの変化など様々な理由で、お店を継続するのが困難になっている現状もあるとききます。けれど、地元の方はこうお話くださいました。「昔の活気はなくなったかもしれないけど、島原商店街は新しいイベントや催し物をして、活気を取り戻そうとしている。島原商店街が地元で良かったと思う。」自分たちの街を自分たちで盛り上げていこうという住民の思いを感じました。いつもなら通り過ぎてしまう街並みの中にも、たくさんのストーリーがあることを知りました。少し、足をとめ、商店街のお店を覗いてみませんか?きっと新たな発見があるはずです。
(執筆者:下京ローカルグッドレポーター 橋本千恵)
2022.10.17