大西常商店~伝統工芸の技術と文化を守る~
まちづくりの取り組みなどの紹介を通じて、下京区の魅力を再発見していただくコーナーです。
今回は、伝統工芸の技術や文化を次世代につなぐため、新たな可能性を見いだす取り組みを行っている大西常商店です。
文化を伝える
大西常商店(松原通高倉西入)は、京都の伝統工芸のひとつである京扇子の製造から卸業、小売業まで幅広く手がけておられます。また、創業時に建てられた京町家の店舗を利用し、能や三味線の稽古場として部屋を貸し出したり、茶道や投扇興(江戸時代に考案された扇を使った遊び)などの文化体験も実施。同商店4代目の大西里枝さんは「昭和初期の創業時から、伝統芸能の稽古場を提供したりしていたので、文化を守り、つないでいくという意識は昔からありました」と話します。
新たな価値を探る
ライフスタイルの変化によって、この30年間で京扇子を取り巻く環境は年々厳しくなってきたそうです。「安価で大量に生産できるよう、職人が分業で製造するのが京扇子の特長ですが、扇子が必需品とはいえない現代の生活文化を考えると、扇子だけを作っていては素材の良さや技術はやがて失われてしまうでしょう」と大西さん。そこで、扇子の形にこだわらず、扇子の骨組みに使われる竹の保香性に着目して、ルームフレグランスを新たに開発されました。「昔からやってきたことを繰り返すのではなく、新たな付加価値を見いだしていくことで、京扇子の技術や文化を角度を変えて発信していけると考えています」と。
SNSでの情報発信も積極的に行い、少しでも京扇子を知ってもらえるよう、工夫を続けておられます。
未来につなぐために
大西さんは、伝統工芸の職人や作家を経営者として育成するための取り組みも始めています。「かつてのように、若手の職人が住み込みで師匠の下につき、修行することができなくなっています。商売としてものづくりを続けるには、技術を磨くとともに経営のノウハウも身に着けていくことが必要だと思います」
文化を守り商売を続けることに難しさを感じながらも、大西さんは次のように話し、前を向きます。「自然のものから作られる伝統工芸は、壊れても修理ができ、長く使えるので、持続可能な社会をつくるものとして注目されてきています。新しい取り組みや挑戦を応援してくれる風土がある京都で、今後も京扇子の特性や技術を生かした商品を開発していきたいです」
※市民しんぶん下京区版「下京のひびき」令和2年12月15日号掲載時の内容です。
2020.12.15