堤淺吉漆店 漆を通して循環する社会をつくる
まちづくりの取り組みなどの紹介を通じて、下京区の魅力を再発見していただくコーナーです。
今回は、漆の文化と可能性を未来に継承するために、さまざまな事業に挑戦しておられる堤淺吉漆店の取り組みを紹介します。
伝統ある漆屋
堤淺吉漆店(間之町通松原上る)は、古代から使用されている塗料である漆の精製から販売を、1902(明治42)年の創業以来、場所を変えることなく続けられています。創業当時は、塗師や蒔絵師などの職人の工房が今よりも多く軒を連ねており、工芸の町として栄えていたそうです。
漆文化消滅への危機感
4代目の堤卓也さんが漆の将来に危機感を覚えたのは、4年ほど前でした。堤さんによると、40年ほど前に500トンあった国内の漆の消費量が、近年では50トンを切るようになり、生産量で化学塗料に劣る漆は、このままでは生き残れないのではないかと感じたそうです。
人肌に近い、親しみやすい質感でありながら、強い強度を持つ漆。そんな漆の良さを知ってもらおうと、堤さんは木製のサーフボードやスケートボードに漆を塗り、若者や海外の人にアピールを始めました。「少しでも多くの人に漆を知ってもらうための入り口になればいいと考えたんです」
永く使うことで透明感が増し味わい深くなる漆は、堤さんの取り組みによってこれまで出会うことのなかった分野でも注目されるようになりました。
漆がコミュニティを生み出す
「漆器は高価でなじみのないものと思われがちですが、本来、漆は木製の器などの耐久性を上げるために塗るもので、実は普段の生活に身近なものなんです」と話す堤さんは今、京北で始めた漆の植栽活動などの教育プログラムによって、人と自然のつながりをつくり出そうとしています。「里山で暮らす人と都市で暮らす人、遠く離れた人どうしが漆を通じて交流することで、新しいコミュニティができ、人と自然の距離がより近くなっていくと考えています。持続可能な循環する社会をつくるためにも、漆が人の行動や考え方を変えるきっかけになればいいですね」と将来の展望を語っていただきました。
社会における絆やつながりがより求められる今だからこそ、皆さんも今のライフスタイルを見つめ直してみませんか。
※市民しんぶん下京区版「下京のひびき」令和2年9月15日号掲載時の内容です。
2020.09.15